午後一番の早馬で、ミルドレッドの出奔に慌てたレナードとアダムス子爵から連絡が来た。


 彼女がアダムスの邸を飛び出した理由が綴られたその2通の手紙に、ジャーヴィスは全く同じ文面で返事を書いた。
 それから小一時間だけ邸で身体と馬を休ませたアダムス家の使者に、銀貨3枚と共に手渡した。
「これから半日何処かで休んでから、レイウッドへ帰れ」と。


 その返信の文面とは。

『今朝、ミルドレッドが帰ってきた。
 とても疲れている様子なので、体力気力が戻るまで、しばらくはこちらで面倒を見る。
 そちらの問題は、そちらで解決していただきたい。
 それまでミルドレッドは戻さない』


 
 これまではレイウッドへの手紙には、美辞麗句を用いて文章をしたためていたジャーヴィスだったが、今回はそんな気は少しも起きなかったので、簡潔な愛想の無い文面だ。
 彼は、ミルドレッドが長椅子でウトウトしながら、ぽつりぽつりとこぼした言葉を思い出して書いた。


 
「スチュ……女のひとが居たの……彼にそっくりな……
 女の子も……これからは、わたしに……
 おか……ね……かわりに……
 もう……だれもしんじ……」


 それはとても小さな声だったが。
 はっきりと聞き取れて。
 その内容に、側に付いて妹の手を握っていた母と、顔を見合わせた。