そのキャサリンの椅子をホールデンが引き、先に行きなさいと母から手を振られたので、彼は妹が休んでいると言う居間に早足で向かった。




 朝早くから下男が暖炉の火を起こしてくれていたので、部屋の中は暖かい。
 その前のクッションをいくつも並べた長椅子が妹のお気に入りの場所だった。


 彼が近付くと、眠っているように見えたミルドレッドが目を覚ました。


「……済まない、起こしてしまった?」

「……違うの、こちらこそごめんなさい。
 お食事中だったでしょう?
 ホールデンに断って……
 身体が冷えていたから、ここで暖めてから……
 わたしもいただこうと思ったのだけれど、もう動けなくなってしまったの。
 身体はすごく疲れているのに、眠れない……」

「直ぐに母上も来られる。
 事情は後で聞く、今はゆっくり休みなさい」


 兄からの労りに、ミルドレッドが微笑んだ。
 この子はいつから、こんな儚げな微笑みを見せるようになったのか。


 ミルドレッドが横たわった長椅子の肘にジャーヴィスは腰掛け、彼女の頭を撫でた。

 この後現れる母から、その格好無作法ねと言われるまで、彼はその体勢で妹の頭を撫で続けていた。