ベネディクト本人も、レイラの癒しが無いことは辛いが、仕方がなかった。
 二度と妻には、レイウッド-ウィンガム問題には関わらせない。



     ◇◇◇


 
 シールズは対峙したウィンガムの領主を見た。
 つくづく勿体ないな、と思った。


 ジャーヴィス・マーチ・ウィンガムは優秀で綺麗な顔をした男だ。
 彼は高等学院ではシールズの2学年下だったので、彼とフェルナンド・アパリシオとの交際も知っていた。


 高等学院は12から19歳までの国内の貴族子息を集めた全寮制の男子校で、卒業までの期間限定で同性同士で疑似恋愛をする生徒は珍しくなかった。
 シールズは成績は良かったが容姿は普通だったので、そんなお誘いを受けたことはなかったが、容姿端麗なジャーヴィス・マーチには、上級生からも下級生からも恋文が絶えないことは噂に聞いていた。


 だが、彼がそれらを完全に無視していたので。
 学生時代の思い出としても、男とはそんな関係は結びたくないのだと言うのも。
 かと言って、学校同士で交流している女子高等学院の生徒に誘われても靡かないのも、広く知られていた。


 そんなお堅い『厳冬のヴィス』が、とある国の高貴な血筋の留学生との恋に落ちた噂は、瞬く間に学院中を駆け巡った。
 留学が終わる前にアパリシオがジャーヴィスを母国に連れ帰ろうとしたとか、第何位かの継承権を放棄すると宣言したとか。


 既に卒業していたシールズは元同級生から、最終的には振られたアパリシオはひとりで帰国して、決められていた婚約者と結婚したと聞いていたのに。

 振った方のジャーヴィスは未だに独身だった。
 そんな彼の不器用な生き方が、勿体ないと思ったのだ。