もうそれだけで、ミルドレッドの気持ちも鬱いでしまう。
 彼が自分の人生から消えてしまう予感に、胸が震える。



 イアンが冬休暇振りに会ったミルドレッドに、挨拶もそこそこに散歩に誘えば。
 キャサリンが「暗くなる前に」と、ふたりを急いで追い立てた。
 いつもなら、一緒に行きたがるメラニーも大人しい。
 ユリアナのイアンを見る目が、生温かい。


 これから自分が何をするのかを、マーチの女性陣に知られていると意識した途端に、段取りも何も、全てが消えた。



「あの、あの……き、今日は貴女に結婚を申し込もうと……
 す、直ぐに返事が無理なら……いつまでも。
 いつまでも、待ちます」


 川辺まで無言だったイアンが、もたもたとプロポーズの言葉を口にした。
 学生の頃から口が上手いと言われていたイアン・ギャレットのその姿を、もしジャーヴィスが見ていたなら。
 先の生涯で、延々とからかい続けられるであろう為体だ。


 こんなはずじゃなかったと、調子が悪い自分にイアンは焦った。
 無事に一代限りであっても、男爵位を手にした時から。
 いや、ジャーヴィスに必ず貴族になってみせると告げた時から。


 ずっと、この日を夢見て。
 どんな言葉で、どんなシチュエーションでと、何度も何度も想像していたのに。