いつからか……彼が王都へ戻ってしまうと、次はいつ来るのか、心待ちにしている自分に気付いた。
 何となく筆を取り、ウィンガムでの出来事を知らせる手紙のやり取りが、今では普通になっていた。
 


 スチュワートとイアン。
 イアンとスチュワート。

 比べることは出来ないふたり。
 どちらも、自分にとって掛け替えのないふたり。



 今もまだ、ミルドレッドの手元には、あの年に発行された貴族名鑑がある。
 
 この年のレイウッド伯爵家の当主の欄には、スチュワート・アダムスの名が。
 その隣には一回り小さくミルドレッドの名前も記されている。
 アダムスの当主夫妻として名鑑にその肩書きで掲載されたのは、この年のみ。
 あれから新たに2回発行されたが、今も側に置いて眺めるのは、この3年前の名鑑だ。



 正直、今日でイアンとの縁が切れるのが怖い。
 それは誰かに側に居て欲しいと言う打算なのか、彼への愛なのか、ミルドレッドには判断がつかない。


 だから隠さずに、その気持ちも伝えようと思う。
 それで、イアンが『冗談じゃない』と怒るのなら。
 ならば仕方がないとも諦めている。


 今から思えば、ジャーヴィスの余計な真似が良かったのかもしれない。
 本当に時間をかけて、イアンとのことを考えることが出来た。


 彼を愛した時と、彼を失った時。
 そのどちらをも、想像して。


 3年ぶりに明るい色のドレスを身に付け、名鑑の表紙を撫で。
 
 ミルドレッドは、決めた。