彼が社交界に出てから、知ったことがある。
 それは、滅多に中央へ顔を出さないウィンガム伯爵の妹のこと。


 ミルドレッドが皆の前に現れたのは、わずか4回。
 あの兄にエスコートされたデビューの時と、新婚間もないシーズンに参加した時の3回。
 兄と夫に挟まれて、後には義弟も居て、彼女の周囲はしっかりガードされていたと聞いた。
 挨拶以外で言葉を交わした貴族も僅かだったらしい。


 そして彼女を襲った悲劇も有名で。
 会えないからこそ、ミルドレッドは特に若い令嬢からの憧れと興味を集めていた。


 その彼女が、領地で募集をかけたなら?
『秘密のベール』の向こうに居るミルドレッド・マーチが主催する令嬢向けのマナー教室。
 始めは興味本位の物見遊山気分でも。
 それが意外と本格的なものだったなら?


 暑い王都を離れて、麗しのマーチ兄妹の本邸で。
 夏の始まりと終わりの1週間に、ご令嬢方の予約が殺到するのは目に見えていた。



「日曜のティータイムに始まって、土曜の朝食後に帰られるのね?」


 彼の案を読み、まず乗り気を見せたのは、母キャサリンだった。
 夏に2回くらいなら、娘の友人達が避暑に来ている感覚で受け入れられる。