「興味を持たれたのですね?」

「はい。ですが兄に叱られてしまいました。
 あの調査は、ギャレット様の普段のお仕事とは違うのですね」

「まあ……そうですが」


 イアンが所属するのは、実家が経営するギャレット商会の調査部門だ。
 そこでは新規取引先の調査や、経営悪化した取引相手の収支決算を裏から手に入れて、そこに粉飾がないか等のチェックも行っていた。
 また商品になりそうな物の情報を得ると、ライバル商会よりも早く繋がりを持つと言う時間の勝負なので、国外へ飛び出して行くこともある。
 早い話が裏方、である。



「悪漢小説に出てくる探偵のような、そんな風に思って……
 お笑いにならないでくださいませ。
 尾行とか、そういうのもしてみたい、なんて。
 すみません、何も存じ上げなくて馬鹿ですね」

「いえ、そんな、笑ったりしません。
 仕事の肩書きを口にすれば、そう受け取られる方も多いです」


 それは嘘ではない。
 特に、女性はそうだ。
「なんて楽しそうなお仕事なんでしょう」と言われる。



 貴女ほど尾行に向かないひとはいません、と。
 ジャーヴィスが戒めてくれたお陰で、不採用の理由を言わなくて済んだ。
 仕事のことであっても、好きな女性にお断りをするのは心苦しい。



 確かに今回の調査は、簡単だった。
 たった1日、たった2人に当たっただけで、終了した。


 だが、イアンはそれがミルドレッドが居たからこそだとも知っている。
 自分とジャーヴィスだけだったら、あの早さでは終了しなかっただろう。