イアンには、今でも忘れられない光景がある。

 それは朝早い図書室での光景だ。


 レポート提出日が間近に迫り、どうしても朝一番に確認したいことがあって、早起きして図書室へ向かった。
 高等学院では、何故か図書室のみ施錠されることはなく、校舎が開かれている間は、始業前でも出入り自由となっていた。



 そこで、噂のふたりを見た。


 イアンは図書室で、向かい合わせて座り、時々視線や足先を絡ませ合うカップルは何度も見た。
 同性愛者に対しての偏見はないつもりだったが。
 その度に「ここでわざわざいちゃつくなら、早くどっか行ってヤれ」と、思っていたのに。
 


 イアンは見てしまった。


『厳冬のヴィス』と『炎夏のフェルナン』


 付き合っていると噂はあったけれど、誰もその現場を見たことがない。
 ふたりが話している、笑っている、連れ立っている。
 そんな姿を誰も見たことがない。
 だから、噂だって「ガセだろう」が大半だったが。


 ふたりが朝の図書室で、抱き合っていた訳じゃない。

 ただ、並びの席に座っていただけだ。
 それも間を3席空けて。



 隣り合って、1冊の本を覗き合うわけでも、肩を触れあわせて居るのでもなく。
 きっちり3席空けて、同じ方向に向かって座り、それぞれに本を読んでいた。