列の最後にはハモンドとケイトが並んで立っていて、少し離れた場所にはマーチ家の護衛ボイドと侍女ルーシーも立っている。


 ボイドとルーシーは、今日からジャーヴィスの目として、マリーを守る名目で。
 逃亡等しないよう監視することになっている。



 外の世界へ続く扉の前に立った時、皆に何か伝えなくてはと、ミルドレッドは振り返った。


「短い間でしたけれど、本当にお世話になりました。
 皆さんも、どうか……
 どうか、お健やかに過ごされますよう……」


 そこからは言葉にならなかった。


 こんなに沢山の人間がこの邸に居て、毎日の生活を支えていてくれたのだとは知りもしなかった。


 スチュワートの代わりに、毎日執務室に籠っていたけれど、自分ではメイドに直接注意もせずに、いつもハモンドやケイトにお任せしていた。


 この人たちが居るからこそ、自分の生活は快適に保たれていたのに。



 これからは忘れない。
 絶対に忘れない。
 ミルドレッドはこの時を忘れないと、胸に刻んだ。




 そしてあの日、シールズの妻から再婚話を教えられた日。

 人知れず、心の中で決意した……
 

『逃げ帰るのではなく。
 わたしは堂々と、皆に見送られてあの家を出る。
 前レイウッド伯爵スチュワートの未亡人として』


 その誓いが、成就された。