ミルドレッドが発したその言葉が、どのような意味を持つのか、イアンには分からない。

 だが、確かに言われたレナードには効いたのだろう。
 彼は力が抜けたように、ふらふらと長椅子に座り込んだ。
 そして、もうそこからは。
 ミルドレッドに対して、足掻くのを止めたのだから。



 思っていたよりも早く、ユリアナが戻ってきた。
 彼女は大きなトランクと、ひとまわり小さなトランクを両手に持っている。
 そこでイアンは持参していた鞄をユリアナに渡して、その大小のトランクを預かった。
 重要書類を入れた鞄をミルドレッドではなく、ユリアナに渡したことで、彼女のことを信用していると伝えたのだ。

 これで、この場から撤収だ。



 その時、またもやカールトンが余計なひと言を、こちらに投げた。


「このマリーは、ウィンガムが送り込んで来たんじゃないだろうな?」

「……それはつまり、私がわざと妹を苦しめたという意味か?」


 ジャーヴィスに抱かれたメラニーが、既に大好きになっていた『おぉじちゃま』のあまりの変化に、不思議そうに彼の顔を見ている。



「そ、そこまでは……」


 単にこのまま帰られるのが悔しくて、深くも考えずに放った余計なひと言だ。
 ジャーヴィス個人に言ったつもりじゃなかった。
 カールトンの背中を冷たいものが駆け上がる。