あの様子なら、まだレナードもこの話を聞いてはいない。
 彼とふたりで、リチャードからふざけた話を聞かされる前に。
 彼とふたりで、本人達の希望ではないとシールズ査察官に直訴して。

 どうにか中央へ取りなしていただけるよう働きかけよう。


 そう思って……
 いくらリチャードに怒りは持っていても、まだミルドレッドは彼に対して恐れを持っていた。
 自分ひとりが彼に対抗しても、ひっくり返せるとは思えなかった。
 いつものように、大声で押し切ろうとしてくるだろう。

 だったら、リチャードに気付かれる前に。

 次期伯爵のレナードと組んで、彼の企みを潰してしまえばいい。




 私室のドアがノックされて、レナードからの返事を携えたユリアナだろうと、ミルドレッドは返事をした。
 ところが、驚いたことにドアを開けて入ってきたのはレナード本人だった。


 驚きのあまり言葉もなく自分を見つめている義姉に、彼は笑顔を見せた。


「久々の外出はどうだった?
 出掛けるなら、俺に声を掛けてくれたらお供したのに。
 途中で倒れたりしないか心配していたんだ」


 そう言いながら、ドアを閉める。

 レナードのこんな振る舞いは初めてだった。