イアンとて、急に出ていったミルドレッドが何処へ向かったのかは分からない。
 全くこの自由過ぎる兄妹は、打ち合わせ等お構い無しな行動をする。


 だが、レナードにミルドレッドの後を追いかけさせる気はない。
 絶対に、彼女の邪魔はさせない。


 この家の状況がまだ掴みきれていないイアンだが。
 顔には決して出さないが、それだけは決めている。



     ◇◇◇



 応接室の外に出たミルドレッドを待っていたのは、侍女長のケイトだった。


「……ケイト」

「お帰りなさいませ、奥様」

「……」


 丁寧に挨拶をされて、どう答えていいか戸惑う彼女に、反対にケイトが話し出した。


「先程、偶然に行き交われたウィンガム伯爵様から、奥様とお会い出来るのも今日が最後だと、教えていただきました。
 それで失礼ではございましたが、こちらで奥様を待たせていただいておりました」



 ジャーヴィスに限って、偶然等あり得ないので。
 誰かを使って、彼女を呼びつけたのだろうとは直ぐに分かったけれど、それでも。
 こうしてふたりだけでケイトに会えたことを、ミルドレッドは兄に感謝した。



「こんなことになって、ごめんなさい。
 あの夜、黙って家を出たことも……」