また……まただと、レナードは再び思い知らされる。

 またこの言葉を、冷めた表情のミルドレッドに冷静に返された。
 『頭が空っぽ』とは、勢いで言っただけだ。
 それがここまで、彼女を怒らせていたとは思わなかった。


 初めて会った13の時から、いいなとずっと想い続けてきた。
 まだ婚約者だった兄とふたりで話している姿も、好ましかった。
 嫁いできても、その想いは変えることが出来ず。
 母からは「余計な気持ちは捨てなさい」と、言われたが。
 父も兄も知らなかったと思う。
 

 だから、王命を知られたあの日。
 表面上だけでも同意して。
 何を言われたとしても、罵ったりせず。
 もっと彼女の心身に寄り添っていたなら……もっと。



 もう、もう。
 やり直せないのか。
 これからは他の女には、目もくれないと誓う。
 もう一度だけ、ちゃんと話す機会を……

 

 そんなレナードの想い等知らぬミルドレッドが、部屋を静かに出ていく。
 思わず、立ち上がりかけた彼を止めたのは、またもやこの男だ。


「レナード卿、これから貴方とマリー・マーチ様の政略婚について、ウィンガム伯爵様からご説明があります。
 どうぞ、ご着席を」