愛する妹の為なら、何でもしそうな男をイアンはもうひとり知っている。
 あのひとは、いつ戻ってくるつもりか。
 最初と最後はでしゃばると、言っていたのに。

 そろそろ最後なんですけどと、イアンは戻ってこないジャーヴィスを待った。



     ◇◇◇



 時は戻り。
 妹の為なら、何でもしそうな男ジャーヴィスは、中庭に出て背後を振り返った。


「あぁ、君か。
 丁度良かった、誰かを探そうと思っていたんだ、頼みがあって」


 君かと、言ったが。
 本当は名前も知らないから、そう呼び掛けただけの相手だ。
 この邸に来ると、いつも自分に張り付いていたメイドだ。
 今日もそうだった。
 その感じは、応接室の中でも続き。
 イアンの説明の順番から、ここからはややこしくなりそうな話になるから引き離したいなと、わざとそのタイミングで席を外すと、ここまで付いてきた。


 そんなことも気付かないハンナは、とても嬉しくなった。
 まさか、ウィンガム伯爵様に、わたしの存在を知っていて貰えていたなんて、と。


「ご、ご用でしたら、何なりとお申し付けくださいませっ」

「お使いをね……これをあげるよ」


 ジャーヴィスは、目をキラキラさせているハンナに向かって銅貨を1枚見せた。
 


「サリー・グレイをここへ呼んできてくれるかな?
 何を話すのか気になるなら、君も立ち会ってくれたらいいから。
 それと、これだけは絶対に守ること。
 私が呼んでいるとは言わないで、連れてきてくれないか」