政略結婚のはずのスチュワートとミルドレッドが寄り添う姿が微笑ましくて、美男美女のお似合いのふたりにはいつまでも幸せで居て欲しいと思っていた。


 叔父のアダムス子爵は、ミルドレッド本人の意志の確認もせずに請願書を出したのに違いない。
 夫も子供も失ってしまったミルドレッド・アダムスの尊厳が無視されているように思えた。

 だから、偶然に公園で会った彼女に話してしまった。



 ……だが、その普通なら許されない情報漏えいは。
 
 アダムス子爵から話を聞かされたミルドレッドから、夫がそれに協力したと思われたくないという……

 自己保身の気持ちが大きく占めていたのを、レイラ本人も気付かずにいた。



     ◇◇◇



 叔父のリチャード・アダムス子爵の思惑を知り、レイラ・シールズへの挨拶もそこそこに、ミルドレッドはアダムス邸へと戻った。


 本当はもう戻りたくなかった。
 一瞬、このまま隣領ウィンガムの実家まで馬車を走らせようかと思った。


 だが、それを押し止めたのは。
 付き添ってくれているユリアナが、レイウッド領内の男爵家の娘だと言うこと。
 乗って来たのがレイウッドの馬車で、馭者が素直に実家まで届けてくれると思えなかったこと。

 そして何より大きな理由は、ユリアナだけを帰し馬車を流しの辻馬車に乗り換えてまでして、自分の体力が隣領まで続くのか自信がなかったことだ。