そんな感じで、この場はイアンに丸投げすると決めたジャーヴィスの次の関心は、ユリアナをアダムスから連れ出す算段に移り。
 彼は内ポケットから小さな手帳を取り出して、イアンの説明に相槌を打つ振りをして。

 実際は別の事を、書き留めていた。
 そして、それを書き終えると急に立ち上がり。


「私は、少し席を外します」と言って、案内も無しに部屋を出て行った。
 誰もが彼に、声をかける間も与えずに。


 イアンの説明が再び始まるのを待っていたアダムスの3人は、唐突なジャーヴィスの行動に呆気に取られていたし、マリーは頼りになりそうなジャーヴィスが急に居なくなり可哀想な程に狼狽えて、今度はイアンの隣の席に移動した。


 別に打ち合わせもしていないが、突発的に動くジャーヴィスに慣れているイアンが驚くはずもなく。
 身を寄せるマリーから距離を取ると、再び注目を自分に集めようと、軽く手を叩いた。


 ミルドレッドと言えば、実は兄が常識からは少し外れてる人物だと薄々勘づき始めていたので、また……と思っただけだった。
 最短の手続きで、あのマリー・ギルモアを義妹にして、わたしを再婚から救ってくれた兄様だ。
 今度はこの家で何をする気なの、と。


 この時、ミルドレッドの頭の中には、サリー・グレイの存在は無かった。



     ◇◇◇



「では、続けます。
 この時、私達はひとつ気になる情報を入手しました。
 それはウィラードの左足が不自由だったと言う話です。
 本人曰く、生まれながらだと周囲には言っていたそうですが、これについて当時を知るアダムス子爵からご説明をいただけますと助かります」

「……」