「イアンにも、ここまで付き合って貰って悪かった。
 商会の仕事には支障がないのか?」

「最後まで付き合わさせてくださいよ。
 商会の仕事は、部下に随時報告をさせています。
 普段は好きに動いて貰って、それで問題が起こったら。
 最後に責任を負うのが、上に立つ者の仕事だと教えてくれたのは、貴方です。
 それを今も、実践しているだけです」

「……お前はこんな時だけ、丁寧な言葉遣いになる。
 賭けに負けても、容赦しないからな?
 今夜はとことん飲むつもりなんだ」



 イアンは、もう一仕事を終えたかのようなジャーヴィスの物言いに笑って見せたが、その心中は複雑だった。



 彼はここに辿り着くまでを思い出していた。

 王都で人気のドレスデザイナー、エリン・マッカートニー。
 彼女には、かなり助けられた。



「最後に伯爵様にお会いした時の……
 仰っていたお言葉を、ぜひ奥様にお伝えしたいのです。
『今回、本当は妻も連れてきて、ウィラードとローラに会わせようと思っていました。
 結婚前に自分が双子だと、どうしても話せなかった。
 婚約を解消されるのが怖かった私は、臆病者です。
 今日は彼女のドレスを作っていただきたかったのですが、妻は私の子供を身籠ってくれましたから、来年以降の楽しみにさせて貰います』と……
 このように、伯爵様は仰せになっておられました」