なぁーんだ、それでね。
 他の女には相手にされなくて、ローラなんだ。
 良い男だと思ったけど。
 まぁ、他の男が見つからなきゃ、相手してやっても良いけどね。


 自分さえその気になれば誰でも手に入ると、マリーが思っているのは、付き合いの長かったローラにはお見通しだった。


 それで出来るだけ、マリーの行動を見張れるように、雇い主のエリン・マッカートニーに相談した。


「わかりました、その方見た目だけは良いのね?
 最初はラウンジの裏方をさせてみて、ちゃんと働けるなら表に出します。
 だけど、貴女が彼女の顔も見たくないと言うなら、王都から追い出してみせましょう」



     ◇◇◇



 その日は風が強く吹いていた。

 店の外では、遠くから火事を知らせる鐘が鳴り響いて、風に乗って微かに人々の叫び声や怒号が聞こえてきた。
 やがて、南区でも慌ただしい雰囲気が辺りを包んで。


 不吉な予感に店内に居た客も帰り始めて、今日はもう閉店しましょうかと、エリンがマネージャーと話し始めた頃。


 その知らせが飛び込んできた。
 西区の一部で、連なる何棟かの住宅火災が発生した、と。
 既に西区は封鎖されていて、他の区域への延焼を阻止する為に、境界の小さな建物の取り壊しが始まったと言う。
 平民が住む北西地区は、何か事が起これば直ぐに、そのように扱われる。