少々よりも長めの時間が過ぎ、黒いドレスを纏った長身のエリンが姿を現した。
 自分の年齢を隠さない彼女は40歳とのことだったが、とてもそうには見えない。



 エリンの前では貴方が主に話すんですと、イアンから言われていたジャーヴィスが先ずは立ち上がり、彼女が差し出した手の甲に触れるか触れないかの感じで唇を寄せ、挨拶の言葉を口にした。



「お約束も無く、レディが大切にされているお時間に、急にお邪魔をしてしまったご無礼をお許しください」

「お気になさらないでくださいませ。
 ようこそ、お越しくださいました。
 いつか、貴方様がお越しくださる日を心待ちにしておりましたの、厳冬のヴィス様」

「……」



 学生時代の通り名を世代が上の女性から口に出されて、ジャーヴィスが無言になったので、エリンは楽しそうに微笑んだ。



「わたくし共の顧客には、高等学院の保護者の方も、女子高等学院に通っていらしたご令嬢方もおられますし……わたくし、お母様の後輩になりますの。
 お父様の前ウィンガム伯爵様とキャサリン様のロマンスは、有名でしたのよ」

「……そうでしたか。
 これを機に、これからは王都入りの度に、こちらに伺わせていただきましょう」

「まぁ、ありがとうございます。
 是非その際には、予約をして等と仰らずに、またこの時間にお寄りくださいませね」