美術の時間。

 自分の手を描くという授業だが葵はうまく描けない、なんなら時間に間に合わず宿題として持ち帰って絵の得意な希菜子に描かせようと目論んでたりもする。
 もちろん希菜子はあっという間に描き終わってニコニコして違う紙に葵の横顔を描いている。

 途中であのずぶ濡れだった校長も顔を覗かせて高橋先生に授業はどうだと声をかけたり、生徒たちの絵を見てから美術室を出て行った。
 葵は校長の靴の音がうるさくてしばらく集中できず、制作は進まなかった。

 するとそんな希菜子の横に先程怪談話をしていたクラスメイト二人が来た。
 彼女たちも美術が得意で先ほど終わらせてきて同じく葵を描いている。
「たくっ。モデル代、いただくよ」
 葵は少し顔を歪める。とっさに変顔もした。
「じゃあ探偵気取りの葵様にまたもやあまり信じ難いお話を」
「探偵もどきとか言いながらも話をぶっかけてくるわね」
 葵はムカつく。クラスメイトはふふふ、と笑った。

「最近私たち変な噂を聞いてさ。ちょっと謎を解いてほしいと思って」
「ん、謎?」

 謎、と聞くと黙っていられないのが葵。さっきは揶揄っていた割りにはそんなことをふっかけてくるものか。

「残り五分ー」
 高橋先生が葵をじろっと見ている。まだ輪郭しかできていない。どう見ても間に合わない。

 だが謎が気になる葵。つい前のめりになってしまった。