「にしても今回あそこで結婚式したおかげで地元の企業も喜ぶだろうね」
「そうね、うちもそのうちの一つでございます」
「あ、やっぱり」
「はい、お得意様の娘さんなのです」
希菜子の実家は昔から代々受け継ぐ地元の老舗和菓子店の一人娘なのだ。
「あのお嫁さんは喫茶店の一人娘で。もう30近くかしら。うちの餡子をあそこにおろしててね」
「ああ、あんこトースト。たまに父さんと行く。そいやいたな、メガネかけた冴えない地味な店員さん」
「もうっ、葵。でも確かにメガネ外してお化粧してるから納品日思い出さなかったらわからなかったわ」
ふふ、と希菜子が笑うと葵は自分もじゃないかと鼻で笑う。
花婿の方は背の高い和服が似合う男であった。前髪をビシッと固めているのだが緊張のあまり顔も固まってしまっている。
「こういう慣れないことをするもんじゃないよね、人前でこう歩くのは無理」
「そうかしら。いろんな人にお祝いしてもらえるのっていいじゃない」
希菜子はうっとり花嫁行列を見ている。
「そいや、目の前を傘持ってる人がいるけどさ……あれ重そう」
花嫁花婿の前にいる男性、花婿と同じくらいの年齢だと思われるがタキシードを着て白い手袋をはめ、長い和傘を手を後ろにして持っている。それが日傘になって少し花嫁花婿たちには影になっているのだが……。
「あの人、なんか泣いてる」
葵は気づいたのだ。