隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。

 その日は顧問の先生の都合で、部活が1時間も早く終わった。いつもどこからともなく現れる徳大寺さんの姿が、今日は見当たらない。
 僕は帰り支度を整えて、図書室へと向かった。

 窓際の席に、徳大寺さんがいる。後ろから近づいて名前を呼ぶと、弾かれたように顔をあげた。

「け、謙介くん。部活、もう終わったの?」
「うん、先生の都合で。何を書いてたの?」

 徳大寺さんが開いているノートには、びっちりと文字が書かれているようだ。

「え、えっと……小説を書いていたの」
「へぇ。どんな小説?」
「もやしの一生を書こうかなって……」

 ……もやし?食べる、もやし?

「そうなんだ。もやしがどんな一生を送るか、僕は考えたことなかったな」
「か、書き終わったら……謙介くん、読んでくれる?」
「え、いいの?」
「うん、嫌じゃなければ」
「むしろ嬉しいよ。楽しみにしてるね」

 ノートをちらっと覗き見すると、『たとえ日陰者と言われても』という、タイトルのようなものが見えた。

 やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。
 ちなみに、僕はもやしっ子ではない、はず。