隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。
その日、徳大寺さんは少し元気がない様子だった。気になったので、昼休みに理由を尋ねてみた。
「実はね。昨日、父を傷つけてしまったの」
「え、どうして?何かあったの?」
「私が、どうしてもお好み焼きが食べたくなって。お夕食に作ったのよ」
料理上手な徳大寺さんは、家でもよく夕飯を作っているらしい。そんなところも素敵だ。娘の手料理なんて、親からすればとても嬉しいものだろう。
でも、徳大寺さんは悲しそうに目を伏せた。
「帰宅して、私が作ったお好み焼きを見た瞬間……父がとても悲しそうな顔になって。そしてこう呟いたの。そうか、朱莉もそっちなのか……って」
「そっち?」
「実は、父は大阪出身なの。そして私が作ったお好み焼きは、広島風だったのよ。母が広島の人だから……」
なんてことだ。徳大寺家に、仁義なきお好み焼き戦争が起こってしまうなんて。
それを避けるために、徳大寺さんのお母さんは、家族全員が揃う食卓にお好み焼きを出したことがなかったらしい。
「お好み焼きを食べるのは、いつも父の帰りが遅いとき。弟も広島派で育ったのよ。だから家族の中で、父ひとりが関西派……。それを察して、あんなに悲しい顔になったんだわ」
「そっか。価値観の相違ってやつだね」
「家族であっても、価値観は違うのよね。父に悪いことをしてしまったわ」
「今度は、関西風も作ってあげたらいいよ。お互いを知れば、きっと手を取り合って生きていけると思う」
「そうね。ありがとう、謙介君。8:2の割合で、両方作ることにするわ」
やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。
関西風と広島風、どっちが8割なのか訊けないまま、その日の昼休みは終わった。
ちなみに我が家は無派閥なので、広島風か関西風かは母の気分で決まる。
その日、徳大寺さんは少し元気がない様子だった。気になったので、昼休みに理由を尋ねてみた。
「実はね。昨日、父を傷つけてしまったの」
「え、どうして?何かあったの?」
「私が、どうしてもお好み焼きが食べたくなって。お夕食に作ったのよ」
料理上手な徳大寺さんは、家でもよく夕飯を作っているらしい。そんなところも素敵だ。娘の手料理なんて、親からすればとても嬉しいものだろう。
でも、徳大寺さんは悲しそうに目を伏せた。
「帰宅して、私が作ったお好み焼きを見た瞬間……父がとても悲しそうな顔になって。そしてこう呟いたの。そうか、朱莉もそっちなのか……って」
「そっち?」
「実は、父は大阪出身なの。そして私が作ったお好み焼きは、広島風だったのよ。母が広島の人だから……」
なんてことだ。徳大寺家に、仁義なきお好み焼き戦争が起こってしまうなんて。
それを避けるために、徳大寺さんのお母さんは、家族全員が揃う食卓にお好み焼きを出したことがなかったらしい。
「お好み焼きを食べるのは、いつも父の帰りが遅いとき。弟も広島派で育ったのよ。だから家族の中で、父ひとりが関西派……。それを察して、あんなに悲しい顔になったんだわ」
「そっか。価値観の相違ってやつだね」
「家族であっても、価値観は違うのよね。父に悪いことをしてしまったわ」
「今度は、関西風も作ってあげたらいいよ。お互いを知れば、きっと手を取り合って生きていけると思う」
「そうね。ありがとう、謙介君。8:2の割合で、両方作ることにするわ」
やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。
関西風と広島風、どっちが8割なのか訊けないまま、その日の昼休みは終わった。
ちなみに我が家は無派閥なので、広島風か関西風かは母の気分で決まる。