隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。

 クラスの女子とはあまり話が合わないようで、相変わらず少し浮いた存在だ。
 そんな彼女と僕が付き合っているという噂があるとクラスメイトから聞かされたけれど、僕たちの関係は特に何も変わっていなかった。

「今日の調べ物はなに?」

 放課後の図書室で徳大寺さんにこう尋ねるのが、最近の日課になっている。

「私ね、O型なんだけど」
「え、そうなんだ?」
「え?」
「あ、ごめん。なんとなくO型じゃないような気がしてただけで」
「よく言われるわ、AB型っぽいって。今日はね、なぜ血液型にC型がないのか気になったから調べていたのよ」
「あぁ、そう言えばなんでだろう」
「実はあったのよ、C型って。1901年にウィーン大学のカール・ラントシュタイナー博士が赤血球表面の抗原に種類があることを発見して、それをアルファベット順にA、B、Cとしたの。そしてA抗原を持つものをA型、B抗原を持つものをB型、どちらの抗原も持っていないものをC型と名付けたのよ。でもそのあとA抗原とB抗原の両方を持っているものが発見されて、これをAB型と名付けたのと同時に、どちらの抗原も持たないものはC型から0(ゼロ)型と名前が改められたの」

 さっき知ったばかりの知識でも完璧に頭の中へ入っているようで、徳大寺さんはよどみなく説明をしてくれた。こういう時に少し早口になるのが可愛いなといつも思う。

「オーじゃなくてゼロだったんだね」
「そうなの。AやBっていうアルファベットと並列されるから、ゼロじゃなく同じアルファベットのOにしたみたいよ」
「へぇ、おもしろいね」
「謙介くんは、B型よね?」

 話した記憶はないけれど、なんで僕の血液型を知っているんだろう?

「私と謙介くんの子どもは、B型かO型のどちらかね」
「え?」
「仮の話ね、仮の。仮定の家庭の話……なんちゃって」

 やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。
 そして人の性格は、たった4種類の血液型では推し量れないものなんだなとしみじみ思った。