隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。

 だけど、たくさん話すようになって、彼女がとても優しくて素直な人だと知ることができた。
 予想もしない方向から話題が出てくることはあるけれど、僕にとってはそれがすごく楽しかった。

「なぁ、橘と徳大寺って、付き合ってんの?」

 いつものように中庭で弁当を食べていると、通りかかったクラスメイトの男子に突然尋ねられた。

「え?付き合って……」
「付き合ってはいないわよ」

 ……あれ、そうだったっけ。

 よくよく考えてみたら、徳大寺さんからはっきりと告白はされていなかった。
 僕も、していない。

「でも、いつも一緒に飯食ってるし、一緒に帰ってるじゃん」
「そうね、仲良しではあるわね」
「なのに付き合ってないわけ?」
「付き合いましょうっていう約束は、していないわよね」

 徳大寺さんに話を振られ、僕は思わず反射的に頷いた。
 クラスメイトがさらに何か言おうとしたけれど、友達に呼ばれて立ち去って行った。

 僕はなんとなくばつの悪さを感じて、徳大寺さんが作ってきてくれたマレーシアの定番練り物とやらを口に運んだ。

「えっと、すごくおいしいね、この……ハタハタ?」
「オタオタよ、謙介くん」
「あはは、僕がオタオタしちゃった……なんちゃって」
「ふふ。まだまだね、謙介くん」

 やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。
 でも僕は、そんな彼女のことが好きだなと思った。