隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。

 二人でよく会話をするようにはなったけど、僕はまだ彼女のことをよく知らない。 

 ある日の帰り道。チワワが飼い主に連れられて軽快に散歩をしている姿を見て、徳大寺さんが目を細めた。

「犬、好きなの?」 
「うちでも飼っているのよ、チワワ」
「そうなんだ。少し意外だな」
「意外?」
「勝手なイメージだけど、徳大寺さんは猫の方が好きそうな気がしたんだ」
「そうね、よく言われるわ。猫派っぽいって」

 他人と連れ立ったりしないところが、なんとなく猫好きっぽいなと勝手に思っていた。

「猫も犬も、どっちも好き。どちらかを選ぶ必要ないもの。みんな、白か黒かはっきりさせたがるわよね」
「そっか、そうだよね。僕、きのこの里とたけのこの山のどっちが好きか、決められなかったんだ。それと同じだよね」
「そうね。白か黒か決めなくてもいいと思うのよね、なにごとも」

 僕は自分の浅はかな考えを恥ずかしく感じた。
 犬派とか猫派とか関係なく、徳大寺さんは、徳大寺さんだ。

「ちなみに、きのこが山で、たけのこが里よ、謙介くん」

 でもやっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。
 きのこの山は、なぜか傘と柄を分けて食べるらしい。