隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。

 そんな徳大寺さんが今日作ってきてくれた弁当は、皿うどん。
 あんかけは保温性抜群のスープジャーに入っていて、食べるときに熱々のものを麺にかけられるようになっていた。

「謙介くんの意見を聞きたいなと思って」
「意見?」
「皿うどんを、どう食べるか」

 徳大寺さんの表情は、とても真剣だった。

「私はね、このパリパリ麺がとても好きなの。だから思いきりパクっと口に入れて嚙み砕きたいのだけど、そうすると歯茎が思わぬ攻撃を受けてしまう……」
「あぁ、刺さっちゃう時、あるよね」
「そうなの。それを防ぐには、あんかけと麺をなじませないといけない。でも私は、パリパリ食感を堪能したい。しっとりしているのは嫌。でも攻撃は避けたい……って、いつも苦悩しているの」
「そっか。でも、何かを得るためには、リスクを冒さないといけない時もあると思う。妥協するかリスクに挑むかは、自分の気持ち次第なんじゃないかな」
「……そうよね。怖がってばかりいては、ダメよね」

 徳大寺さんは意を決したように頷き、麺の上にあんかけを注いだ。

「ありがとう、謙介くん。私はもう、パリパリ食感に妥協しないわ」

 やっぱり、隣の席の徳大寺さんは、少し変わっている。
 勇敢にもリスクに挑んだ彼女は、その後パリパリ麺から返り討ちをくらっていた。