「知ってる?綺麗な桜の木の下には人の死体が埋まってるんだ。人の死体を養分にしてこんなに綺麗な花を咲かせてるんだよ」

「……先輩、俺を脅かそうとしてますね」

「違うよ。これは本当の話だ」

「嘘です。桜の木の下に死体が埋まってるって梶井基次郎の小説じゃないですか」

「何だ。バレたか」

千束はつまらなさそうな顔をした後、桜の花びらが薄い絨毯を作っている地面に座り、背負っていたリュックサックを開け、中から小さい風呂敷に包まれたものを取り出した。話していたサンドイッチだろう。

「君も座りなよ」

千束が自分の隣を右手で叩きながら暖を見つめる。暖は緊張を覚えながら「失礼します」と言い、隣にゆっくりと腰を下ろす。

お花見というものは桜を見るために存在するものだ。しかし校庭に来てから、暖は桜の花よりも千束の方しか見ることができない。彼女の細長い指は風呂敷を解き、タッパーを開けてサンドイッチを取り出しているところだった。

「はい」

「あ、ありがとうございます」