高校の校舎の窓からは校庭がグルリと見回すことができる。校舎の二階は二年生の教室が並んでいる。二年二組の教室で、二年生になったばかりの春梨暖(はるなしだん)は窓の外をぼんやりと眺めていた。

暖の口から大きな息が吐き出される。四月は新しい出会いと別れがあり、多くの人がスタートラインに立つ大切な季節だ。その季節が暖には憂鬱であった。それが何故なのかは、暖自身にもわからない。

(なんか、心と体が重い……)

四月になってしばらくしてから、暖の心と体はまるで重い石でも乗っているかのように重い。集中力は長続きせず、頭の中は嫌な出来事を何故か思い出してしまう。それがずっと続いていた。

「桜は綺麗なんだけどなぁ」

暖の目の前に広がっている校庭には、何本もの桜が植えられている。そこには薄くピンクに色付いた桜の花が咲いており、温かな春風が吹くたびに花びらが散っていく。

桜は綺麗だ。この花を見ると、多くの日本人が春を感じることだろう。しかし、暖の胸の中から憂鬱な気持ちが消えることはない。