メイソン公爵はふらふらと立ち上がると、命じられた通り振り返らず、口を開かず、とぼとぼと城門の方へ歩き出す。
心なしか、その身体はひとまわりもふたまわりも小さくなったように見えた。
ウィリアムは、城門まで付き添い見届けるようオズに命じると……
「エリアス・メイソン」
「……はい、殿下」
呆然と立ち尽くしていたメイソン公爵の息子──いや、たった今、新たなメイソン公爵となったエリアスに向かって言った。
「メイソン公爵家の伝統を否定するつもりはない。しかし、それが産んだ負の連鎖は、誰かが断ち切らねばならない」
「……はい」
「私も──陛下も、それを君に期待している」
「──はい」
悄然としていたエリアスが顔を上げた時、その瞳には光が宿っていた。
彼は一つ大きく深呼吸をしたかと思ったら、憑き物が落ちたような顔をウィリアムと、その腕の中にいるイヴに向けた。
「父の数々のご無礼、代わってお詫びします。誠に、申し訳ありませんでした。それから──イヴさん」
「はい」
「ずっと、あなたにお礼を言いたかった。妹と……ルーシアと仲良くしてくれて、ありがとう。どうかこれからも末長く、あの子と友達でいてやってください」
「もちろんです。どこの馬の骨とも知れない女の子供でも、私が幸せでいられる理由の一端を、ルーシアさんの存在も担ってくださっているんですから」
イヴの言葉に、エリアスは心から嬉しそうな顔をする。
たとえ腹違いでも、彼がルーシアを妹として大切に思っていることがひしひしと伝わってきて、イヴも嬉しくなった。
「いつか、あなたが淹れたコーヒーを飲んでみたいです。ルーシアと一緒に」
「はい、お待ちしておりますね。最高の一杯をご提供できるよう、私も精進してまいります」
エリアスが、深々と頭を下げて去っていく。
衛兵達も安堵の表情を浮かべ、一件落着といった雰囲気になった。
ところが、観衆はまだ解散する気配がない。
なぜなら、彼らは知っていたからだ。このあと、もう一幕あることを。
ウィリアムがイヴの身体を向かい合わせになるよう反転させると、いつになく厳しい表情を浮かべて言った。
「──イヴ、私は君にも怒っているんだぞ」
「ええっ!?」
とたん、両手で口元を押さえてコーヒー色の瞳をうるうるさせるイヴに、彼は苦言を続けるのをくじけそうになったが……
心なしか、その身体はひとまわりもふたまわりも小さくなったように見えた。
ウィリアムは、城門まで付き添い見届けるようオズに命じると……
「エリアス・メイソン」
「……はい、殿下」
呆然と立ち尽くしていたメイソン公爵の息子──いや、たった今、新たなメイソン公爵となったエリアスに向かって言った。
「メイソン公爵家の伝統を否定するつもりはない。しかし、それが産んだ負の連鎖は、誰かが断ち切らねばならない」
「……はい」
「私も──陛下も、それを君に期待している」
「──はい」
悄然としていたエリアスが顔を上げた時、その瞳には光が宿っていた。
彼は一つ大きく深呼吸をしたかと思ったら、憑き物が落ちたような顔をウィリアムと、その腕の中にいるイヴに向けた。
「父の数々のご無礼、代わってお詫びします。誠に、申し訳ありませんでした。それから──イヴさん」
「はい」
「ずっと、あなたにお礼を言いたかった。妹と……ルーシアと仲良くしてくれて、ありがとう。どうかこれからも末長く、あの子と友達でいてやってください」
「もちろんです。どこの馬の骨とも知れない女の子供でも、私が幸せでいられる理由の一端を、ルーシアさんの存在も担ってくださっているんですから」
イヴの言葉に、エリアスは心から嬉しそうな顔をする。
たとえ腹違いでも、彼がルーシアを妹として大切に思っていることがひしひしと伝わってきて、イヴも嬉しくなった。
「いつか、あなたが淹れたコーヒーを飲んでみたいです。ルーシアと一緒に」
「はい、お待ちしておりますね。最高の一杯をご提供できるよう、私も精進してまいります」
エリアスが、深々と頭を下げて去っていく。
衛兵達も安堵の表情を浮かべ、一件落着といった雰囲気になった。
ところが、観衆はまだ解散する気配がない。
なぜなら、彼らは知っていたからだ。このあと、もう一幕あることを。
ウィリアムがイヴの身体を向かい合わせになるよう反転させると、いつになく厳しい表情を浮かべて言った。
「──イヴ、私は君にも怒っているんだぞ」
「ええっ!?」
とたん、両手で口元を押さえてコーヒー色の瞳をうるうるさせるイヴに、彼は苦言を続けるのをくじけそうになったが……