妹から容赦ない口撃を受けて泣きついてきた准将の顔を、チートが猫科動物特有のザラザラの舌でザリザリ舐めて慰める。
 小さなモフモフに甘えるマッチョな兄を鼻で笑い、ロメリアさんはアリーナに視線を戻した。
 国王様が優勝者であるミケと、ここまで勝ち上がってきたメルさんを褒め称えているところだった。
 闘技場は割れんばかりの拍手に包まれるとともに、国王陛下、万歳! ベルンハルトに栄光あれ! という叫び声が幾重にも上がる。
 そんな光景を前に、トラちゃんは呆然とした様子で呟いた。

「ベルンハルトの国王陛下は、国民に慕われているんだね。それに、国王陛下の方も彼らを大切に思っているみたい……僕の父上とは、大違いだ」

 私はロメリアさんと顔を見合わせ、准将はぴたりと泣くのを止める。
 トラちゃんはぐっと俯いて続けた。

「僕は、自分と母様があの伏魔殿で生き残るのに精一杯で、国民に目を向けたこともなかった。そんな僕なんかが国王になって、はたして何ができるんだろう……」

 とたん、ふふふっ、とロメリアさんが笑った。
 珍しく彼女がデレたのかと思ったが──


「何もできませんわ」


 その美しい唇から飛び出したのは、さっき実兄にぶつけたものの上を行く、容赦のない言葉だった。