「殿下は三年前ももちろんお強かったですが、あの頃は競技としての剣術しかご存知ありませんでした。しかし……」

 准将は、隣で居心地悪そうにしているトラちゃんを一瞥して続ける。

「実戦を経験なさって、さらにお強くなられましたね。戦争が殿下を育てたのかと思うと、さすがに複雑な思いではございますが」

 しみじみとそう告げた准将を見ないまま、ねえ、とトラちゃんが口を開く。

「半年前のあの時……もしもタマコが間に入らなかったとしても、僕はあの人を殺せなかった?」
「左様でございますね。一撃で致命傷になっていたとすれば別ですが、あの程度のナイフと……僭越ながら、トライアン様の細腕では簡単なことではなかったかと存じます」
「……だってさ、タマコ。僕は無意味なことをして、あなたに痛い思いをさせただけだったんだ……ごめんね」

 どこか投げやりに言うトラちゃんに、私は慌てて首を横に振った。
 フンと鼻を鳴らして、ネコが彼から顔を背ける。
 集まってきた子ネコ達は、同じように首を動かして私とトラちゃんを見比べていた。お馴染み、シンクロニャイズドである。
 そんな私達の頭越しに、ロメリアさんが准将に冷ややかな視線を送った。

「まあ、お兄様ったら。決勝にも残れなかった方が、よくも恥ずかしげもなく偉そうに講釈を垂れられたものですわね?」
「うぐっ……」
「殿下が実戦を経験して三年前よりも強くなったとおっしゃるなら、同じだけ戦に出ていたはずのお兄様はどうして負けたのでしょうね?」
「びえーん、チートぉ! 妹が軽率に自尊心を粉砕してくるよぉ!」
『よーしよしよし! 泣くんじゃにゃいよ、坊! 男の子だろっ!』