『おうおう、小賢しいのぉ。先立って王子の過去のトラウマを打ち明けたのは、こやつを一人で行かせるのは忍びない、と珠子に思わせるためじゃな』

 口には出さずとも、国王様が一番心配しているのはミケのことだ。
 国王様は、体の傷は時が経てば癒えると言ったが、心の傷はどうだろう。

(お兄さんを目の前で亡くしたミケの心の傷は、今もまだ癒えてなんかいない……)

 私はミケに向き直って口を開いた。

「私は、戦争のことも政治のこともわからないので、自分の立場とか、ミケの立場とかは今は置いておくとして……とにかく、ミケと長い期間会えなくなるのは、いやです」
「タマ……」
「ミケは平気ですか? 半月も私が吸えないんですよ? いや、無理でしょ! 無理です! 隈がどえらいことになりますよ、絶対っ!!」
「タマ……?」

 ずずいっと顔を近づけて、あえて大仰に力説する私に、ミケはたじたじとなる。
 私は次に、チートや子ネコ達にデレデレしていた将官達に向き直った。
 彼らも、ミケと一緒に総督府に行くよう、国王様から命じられている。

「皆さんも、半月もネコ達と会えなくて、大丈夫ですか?」
「「「「「「全然大丈夫じゃないですっ……!!」」」」」」

 とたん、将官達は声を揃えて悲鳴を上げた。
 ミットー公爵はチートを懐に隠し、中将、少将、准将達もそれぞれ近くにいた子ネコを抱っこする。
 そうして一斉に、縋るようにミケを見た。

「うっ……」

 おじさん部下達のうるうるの眼差しに、ミケが顔を引き攣らせる。
 やがて、彼は大きくため息を吐いて呟いた。