「お、温度差で、風邪ひきそう……」

 緊張の原因が自分の処遇を巡ってのことなのだから、なおさら居心地が悪い。
 この世界に来る前の私なら、過呼吸になっていたかもしれない。

(全人類の籠絡を目論むネコなんて、他の国に連れ出さない方がいいに決まっている)

 子ネコの数が急激に増えたりしない限り、彼らの糧となる負の感情は、このベルンハルト城に出入りする人間のそれで十分賄えるだろう。
 できればこの世界で、ネコ達とは平和的に共存したい。

(ミケの心労を思えば、私だってラーガスト王国に行かない方がいいよね……)

 などと考えていると、ネコが勢いよく飛び付いてきた。

『こぉらあっ、珠子ぉ! 何をしておるかっ! 喜んで参りますー、とさっさと国王に伝えんかいっ!!』
「へぶっ……」

 頭を抱き締めるようにしがみ付かれ、モフモフふわふわのお腹の毛に顔が埋まる。
 猫好きにとってはご褒美だが、ほっこりしている場合ではないため、両手で脇を掴んで引き剥がした。

『ぐひひひひ! この世界全てを、我らの食卓とするんじゃあああ!』
『かーちゃん! おれ、ミットーさんといっしょに馬に乗るにゃんっ!』
「「「「「ミーミー! ミーミーミー!」」」」」

 ひげ袋を膨らませてにゃごにゃごうるさいネコと、ミットー公爵の腕を抱き締めてルンルンのチート。長テーブルの上で大運動会続行中の子ネコ達を見るに、私がラーガスト王国行きを反対したところで聞き入れられる気がしない。

(それに……)