『ぬわーははははっ! いいぞいいぞぉ! 国境を越えて我らの勢力を広げるチャンスじゃあああっ!!』
「え……何、そのテンション……」

 めちゃくちゃ乗り気になっていた。
 相変わらずの悪役全開の笑い声に、私はげんなりする。
 さらには、トイレハイの猫みたいに、長テーブルの上を縦横無尽に駆け回り始めた。

「あっ、あっ、いけません、おネコ様! 困ります! 困ります……って、ああーっ!!」
『ぐははははっ、困れーいっ!』

 末席の方にいた准将が慌てて書類を片付けようとして、見事失敗する。
 散らかされた書類には、ミケのサインの代わりに、ネコが肉球スタンプが押しまくった。

『全世界の人間が、このモフモフの前にひれ伏す時がくるだろう! この世の全ては、我らのものじゃああああっ!!』
『かーちゃん! ミットーさんが行くにゃら、おれも行くにゃっ!』
「「「「「ミーミー、ミーッ!!」」」」」

 とにかく大はしゃぎのネコに煽られてチートが走り出し、子ネコ達もぴょんぴょん飛び跳ねて大盛り上がりだ。
 突然始まったモフモフファミリー大運動会に、傍観組がとたんに落ち着きをなくした。

「私も、ネコさん達に困らされたい……」

 国王様の背後に控える侍従長が悩ましげな表情をし、

「うんうん、チートは元気だねぇ。元気が一番だにゃん」

 ミットー公爵なんて、興奮したチートにガジガジ腕を齧られまくっているのに満面の笑みだ。

「はわ、かわわわ……」
「ニャニャニャ! ニャーンッ!!」

 はしゃぎまくる子ネコ達の姿に、額に向こう傷のある強面の中将は語彙力を失い、メガネをかけたインテリヤクザ風の中将は今日もまた人語を忘れてしまった。

「うふふ、ちっちゃいのに、よく動くねぇ」
「うんうん、そうだねぇ、かわいいねぇ」

 黒髪オールバックとスキンヘッドの仲良し少将二人組は、ほのぼのとした表情をしている。
 そんな部下達とは対照的に、ミケと国王様の間の空気はキンと張り詰めたままだった。