最初に会った時、彼はベッドの側に置いた椅子に座り、仰向けに横たわる私の左脇腹近くに突っ伏して居眠りをしていた。
 後から聞いた話では、多忙な身にもかかわらず無理矢理時間を作っては、昏睡状態の私に付き添ってくれていたらしい。
 なお、私が目覚めるまで十日を要したという。
 そんなこととは露知らず、起き抜けでぼんやりとしていた私は、目の端に入った彼の金髪を、気を失う直前まで一緒にいたマンチカンのミケの毛並みと勘違いしてしまう。
 誰かによってベッドに運ばれた私に、心配したミケが寄り添ってくれている、と思ったのだ。
 まさか、異世界に転がり込んでいるなんて知る由もなかった私は、横になったまま左手を伸ばして金色の毛を撫で回す。
 この時、愛しいミケへの思いの丈を吐き出すのに、何のためらいも覚えなかった。

「ミケかわいい、尊い、抱っこさせて、吸わせて──だったか?」
「わーっ!!」

 半年前の自分のセリフが、低く艶やかな男性の声で再現される。
 私はたまらず両手で口を覆った。
 自分のではなく、目の前の彼の口を。
 
「いや、だって! あの時はですね、相手がミケだと思ってましたし! それに寝ぼけていたからノーカン……」
「そんな言い訳は聞かないし、なかったことにもならん。そもそも──私も、ミケだ」

 すかさず、私の両手をひとまとめにして引き剥がし、堂々たる態度で〝ミケ〟を名乗った彼のファーストネームは、ミケランゼロ。
 イタリアはルネサンス期の天才芸術家を彷彿とさせる名前だが、本人は彫刻や絵画のモデルとしての方が重宝されそうな美青年だ。
 しかも……