「なお、癒やし要員として、タマコ殿にもネコ達とともに総督府まで同行してもらう」
「──お言葉ですが」

 ミケは、私を背に隠すようにして、国王様の方に身を乗り出した。

「ラーガスト国内はいまだ混乱が収まってはおらず、危険です。民間人を同行させるわけには参りません」
「お前はタマコ殿を──王子の隣に部屋を与えられその庇護を受ける人間を、民間人だと言い張るのか」
「その待遇は、身を挺して私を凶刃から守ってくれたことへの対価です」
「タマコ殿がお前を救ってくれたことには、父親としても国王としても感謝をしている。だがな、ミケランゼロ──体に受けた傷は、時が経てば癒えるのだ」

 国王様は、私が初めて目にするような鋭い眼差しでミケを貫いて続けた。

「いったい、いつまで対価を払い続けるつもりだ? 一生か? タマコ殿は一生、たった一度王子を救っただけで特別待遇を享受する民間人として生きるのか? それを周囲がどう思うのか、彼女がどのような視線に晒されるのか──想像できないわけではないだろう」
「タマがその立場に思い上がっているわけではないのは、父上とてご存知でしょう。彼女とネコ達の存在は、戦争で傷ついた者達に癒しを与えてくれています」
「ミケランゼロ、本当の意味での戦争はまだ終わってなどいないのだ。我々は、今もまだ窮地に立たされ続けている。敵は、ラーガストだけではないのだからな。他国に付け入る隙を与えないためにも、一刻も早く国家を立て直さねばならない。そのためになら、私は使えるものはなんでも使うぞ。それで、息子の恨みを買おうともな」
「父上……」

 国王様に畳み掛けられ、ミケはぐっと言葉に詰まる。
 絶対君主制の国家において、国王の言葉というのは絶対だ。
 まだ親に庇護される年齢のトラちゃんが象徴的国王として大人達に利用されることになるとわかっていても、国王様が彼をラーガスト革命軍に引き渡すと言えば誰しもが良心の呵責を押し殺してでも従う。
 それと同じように、国王様が口にした時点で、私とネコ達がその旅に同行させられることも決定事項なのだ。
 これに対し、当のネコはというと……