「ミケランゼロの目の前での凶行だった。レオナルドを助けられなかったことを悔いているのだろうな。兄の分まで、自分が王子として祖国に尽くさねばという思いに囚われている」
「それで、ミケはあんなに頑張ってしまうんですね……」
「だが、ミケランゼロが潰れてしまえば元も子もない。周囲を頼るよう再三諭してきたのだが、どうにも他人に心を開き切れないようでな」
「それにも、何か理由があるのですか?」

 私の問いに、国王様はここで初めて、わずかに声を震わせた。
 その膝に箱座りしていたネコが、ちらりと彼を見上げる。

「おそらくは……兄を殺したのが、私の忠臣だと思われていた男だったせいだろう。ミケランゼロもレオナルドも、彼のことを慕っていた」
「……っ」

 それは、手酷い裏切りだった。幼いミケは、信頼していた相手に兄を殺されたのだ。
 それがトラウマとなって他人に心を開き切れない彼は、何でも一人で背負い込み過ぎてしまう。
 昨日、嘴の黄色い頃合いと揶揄したミットー公爵の言葉には、そんなミケを案ずる気持ちと、もっと自分達年長者を頼ってほしいという気持ちが込められていたのかもしれない。
 私はしんみりとした気持ちになったが、国王様は逆に少し声を明るくして続けた。