いつもにこにこしていて柔らかな雰囲気の王妃様が、珍しく固い声で国王様を呼ぶ。
 何事か、と私は思わず身構えた。
 国王様は王妃様を一瞥したが、何事もなかったかのように私に視線を戻して続ける。
 
「ミケランゼロは、実は私達の次男でな──五つ上に、兄がいた」
「えっと、そのお兄様は……」
「ミケランゼロが十歳の時に、亡くなった──いや、殺されたんだ」
「えっ……」

 思いも寄らない事実に、私は言葉を失った。
 王妃様が悲しそうに目を伏せる。
 彼女に付き纏う負の感情の正体は、長男を失ったことへの悲しみ、あるいは犯人への憎悪だったのだろう。
 私がかける言葉も見つけられない中、子ネコが一匹、王妃様の肩に飛び乗った。

「まあまあ、子ネコちゃん……慰めてくださるの?」

 王妃様は悲しそうに微笑んで、子ネコに頬を寄せる。その姿が先ほどのメルさんと重なって、私の胸の痛みもぶり返した。
 子ネコは王妃様に額をスリスリしつつ、せっせと負の感情を食べている。

(お子さんを亡くした悲しみが完全に消える日なんて、きっと生涯訪れはしないだろうけど……)

 王妃様の心が少しでも慰められることを願わずにはいられなかった。
 ベルンハルト王国の亡き第一王子は、レオナルドといったらしい。
 国王様は王妃様の方を見ないまま、落ち着いた声で続けた。