「メ、メルさん、ごめんなさい! ネコが、お父様を……」
「いいえ、父は完全に自業自得です。子ネコさんにいきなり触ろうだなんて、烏滸がましい……ネコさんがお怒りになるのも当然です」

 やがて、ヒバート男爵が倒れた場所から遠く離れると、メルさんは私の腕を離した。
 そうして、何やらもじもじしながら言う。

「あの、タマコ嬢……お見苦しい光景をお見せしましたね」
「いえ、それよりメルさんは大丈夫ですか? お父様が随分なことをおっしゃっていたみたいですが……」
「父は昔からああいう人なので……もう、慣れました。この格好も、私は好きでやっているので、父になんと言われようと平気です」
「私はメルさんのその格好、とても好きです! 最高に似合っていてめちゃくちゃかっこいいと思います!」

 食い気味に言う私に、メルさんは目を丸くした後、はにかんだみたいに笑った。
 彼女の肩にいた子ネコも、私の言葉に同意するように鳴く。

「ミー! ミーミー!」
「ふふ、可愛い……あなたが来てくれて、とても心強かったです。ありがとう」

 子ネコの小さな額にキスをして、メルさんがまた笑みを浮かべた。
 けれども、その笑顔がどこか悲しそうに見えて、私はちくりと胸が痛んだ。