「フシャーッ!!」

 凄まじい威嚇の声を上げたネコが、弾丸のように飛び出していったのは同時だった。

『汚い手で、我の子に触るなーっ!!』

 ネコはヒバート男爵の前に躍り出ると、その横っ面に強烈な猫パンチをお見舞いする。
 母強し、強すぎる。

「へぶ……っ!!」

 横向きに吹っ飛んだヒバート男爵は、運悪く近くの柱に頭をぶつけてひっくり返ってしまった。
 脳震盪を起こしたのか、そのままピクリとも動かなくなる。
 
「あわわ……」

 すると、興奮冷めやらぬ様子のネコを抱え、子ネコを一匹肩に乗せたメルさんが、床に伸びた父親に背を向けた。
 そうして、柱の陰から出て立ち尽くしていた私の腕を掴んで走り出す。

「タマコ嬢、今のうちです! 参りましょう!」
「え? ええ? あの人をあのままで!?」

 何事か、と通り掛かった人々が集まってくる気配がしたが、メルさんが背後を振り返ることはなかった。