二十歳の誕生日を迎えたあの日、あの夜──私はたった一人、猫カフェの店内を掃除していた。
 閉店とともにキャストのお猫様達にはバックヤードへお帰りいただいたため、店内に残っていたのは珍しくケージに入るのを嫌がったマンチカンのオス、ミケだけである。
 キリッとした顔立ちと短い足でてちてち歩く姿のギャップがたまらないマンチカン。
 穏やかで人懐っこい性格だと言われるが、ミケはツンデレ……いや、ツンツンツンツンツンデレで、普段は猫一倍つれない子だ。
 しかし、客から理不尽なクレームを受けたり、店長にきつい言葉で叱責されたりして私が落ち込んでいると、そっと隣に寄り添ってくれる優しい一面もあった。
 あの日もきっと、私が先輩スタッフに仕事を押し付けられたのに気づいて、付き合ってくれていたに違いない。

「ミケ、心配してくれてるの……?」
「なあーん」

 その金色の毛並みに顔を埋めても、短い両の前足を掴んで肉球をクンクンしても嫌がらないばかりか、鼻キスまでサービスしてくれた。
 そんなミケのおかげで気を取り直し、ようやく掃除を終えようとした頃のこと。
 ミーミー、というか細い鳴き声が耳に届き、私は身構えた。

「こ、これって……子猫の声? どこから……」

 声は、玄関の方から聞こえてくる。
 店は雑居ビルの一階にあるのだが、扱いに困った猫をこっそり置いていかれる事案が度々起こっていた。
 猫カフェなら喜んで引き取ってもらえると安易に考えてのことだろう。

「いや、猫カフェだって際限なく飼えるわけないし、うかつに受け入れちゃうと店長から大目玉を食らうんだけど……」

 それでも子猫の痛ましい鳴き声を無視しきれず、ひとまず様子を窺おうと玄関に近い窓から頭を出した──その瞬間。
 後頭部に強い衝撃を受け、私の意識は途切れてしまった。