弾かれたみたいに、トラちゃんが顔を上げた。
 それを真正面から見返して、ミケは淡々と告げる。

「彼女は無事だ。ラーガスト王国内に設けたベルンハルトの総督府にて保護しているとの報告が上がっている。何も心配することはない」

 思わぬ朗報に、私はよかったねとトラちゃんに声をかけようとした。
 しかし、すんでのところでそれを呑み込む。

「そう……そうなんだ……あの人は、生きているんだね……」

 はあー……と、トラちゃんは肺が空っぽになるくらい長い長いため息を吐いた。
 それが、単に母の無事が判明して安堵したからというよりは、何だかもっと複雑な気持ちが込められているような気がして、胸がざわざわする。
 思わずミケの顔を振り仰ぐが、彼は小さく肩を竦めて見せただけだった。
 そうこうしているうちに、ミケがここにいるのを把握していたらしい侍従長が、お茶のおかわりを持ってきてくれた。
 とたんにネコが飛び起き、顔を輝かせる。

『極上のランチ、キタコレー!!』

 今日も今日とて、侍従長はネコ達に大人気だ。
 あんなに不機嫌そうだったネコが、にゃあんにゃあん、とかわい子ぶった声を上げて飛び付いていく。
 もちろん、子ネコ達も一斉にそれに続いた。

「ちょっとちょっと! ポットを持っていらっしゃるから危な……」
「うふふ……いやはや、ポットが邪魔ですな」

 ネコ達にメロメロになった侍従長は、今にもポットを放り出しそうだ。
 それを阻止しようと慌てて席を離れた私は、知らない。
 ミケとトラちゃんが、この時どんな会話をしていたのかを──