しとしとと雨の音が聞こえてくる。
 ミケは、欲張り過ぎた手巻きサンドに四苦八苦する私を面白そうに眺めていた。
 しかし、紅茶が適温になるとそれで唇を潤し、トラちゃんに向き直る。

「お前、タマを呼び寄せるためにわざと食事を抜いたな? そうすれば、世話係の侍女からタマに相談が行き、タマもそれを無視できないとわかっていたんだろう」
「あはは、バレちゃった。だって、タマコと一緒にいたかったんだもの。あなたまで来るとは思わなかったけど……」

 さっさと食事を終えた王子達が、しばし無言のままお互いを見据える。
 先に動いたのは、トラちゃんだった。
 彼はテーブルの上に片手を突いて身を乗り出し、ねえ、と口を開く。

「僕は、いつまでここでこうしていればいいのかな」
「戦後処理が落ち着くまでだな。今はここで大人しくしているのが一番安全だということくらい、お前自身もわかっているだろう」

 敗戦により王政が崩壊したラーガスト王国では民衆が蜂起し、国王や王太子をはじめとする王族が軒並み処刑された。
 そのため、国王の直系で生き残っているのは、もはやトラちゃんただ一人だという。

『ふん……皮肉なことよ。この小僧は、敵国の捕虜になったおかげで、一人だけ生き残ったんじゃから』

 ネコは吐き捨てるように言うと、私の膝の上で丸くなった。
 王政に恨みを持つ国民から命を狙われる可能性があるため、トラちゃんがベルンハルト王国で捕虜をしている方が安全なのはわかる。

(でも、見張りとか時間制限をつけたりして、もう少し自由に過ごさせてあげてほしいな……)

 そう思ったが、口に出さなくてよかった。
 この後ミケが続けた言葉で、私は自分の考えが浅はかであることを思い知る。