無意識に服の上から左脇腹の傷跡を摩る私を、ネコが見ていた。
 ミケも何か言いたそうな顔をしたが、その手元に目を止めた私が口を開く方が早かった。

「ミケ、チーズとマリネだけですか? えええ……もっと載せましょうよ! 牛とか豚とか鶏とか!」
「いや、肉ばっかりだな。こういうのはな、載せ過ぎると巻く時に困るんだぞ」
「あっ、トラちゃんも! フルーツしか載せてないじゃない! 意識高い系女子なの!?」
「意識高い系って? タマコは欲張っててかわいいね。いっぱい食べて?」

 王子二人の繊細そうな手巻きサンドとは対照的に、私のはたっぷりの燻製肉に始まり、生野菜やクリームチーズのディップ、ゆで卵のスライスが幅を利かせている。
 メンズのが細巻きなら、私のは極太巻き……というか、そもそもこれは巻けるのだろうか。
 ミケもトラちゃんも、生粋の王子様というだけあって余裕も品もあり、私は自分一人だけがっついているのが恥ずかしくなった。
 一方、がっついていると言えば……

「タマ、あいつらはいったい何を騒いでいるんだ?」
「何か……追いかけてる? でも、何かいるようには見えないけど……」

 二人の王子の視線が、いつの間にかネコのお腹の下から出ていた子ネコ達に集まる。
 彼らはミーミー鳴きながら、あちこち駆け回っていた。
 私が今さっき、ミケをなでなでしたついでに取り除いた黒い綿毛がふわふわと舞うのを追いかけているのだ。

『出勤前に珠子が散々払ってやったのに……こいつ、半日でもうこんなに溜め込んできたのかい』

 ミケが置かれたブラックな状況に、さしものネコも呆れたように言う。
 そんなネコだが、基本的には自身のフェロモンが効く相手からしか負の感情を摂取できない。
 ただし、ミケ、トラちゃん、ロメリアさんのそれに関しては、私が黒い綿毛の状態にして体から引き離すことで可能となった。