こうして、非公式ながらベルンハルト王子とラーガスト王子による初めての会食が始まった。
 いや会食どころか、トラちゃんが王宮に軟禁されてからすでに半年経つが、ミケがここに顔を出したのも初めてである。
 理由は、トラちゃんの取り調べを将官に一任していたから、国政に関わっていなかった彼が有用な情報をほとんど持っていなかったから、というのが表立ったものだが……

『この小僧は珠子を刺した張本人じゃ。そりゃあ、足も遠のくじゃろうよ。我だって、こいつの顔など見たくもないわい』

 膝の上のネコが、相変わらず不機嫌そうに呟いた。
 一緒に食卓を囲むと言っても、和気藹々とした雰囲気には決してなりえない。
 けれども、こうしてミケとトラちゃんが揃ったのを見ると、思う。

(ナイフが刺さったのが、私でよかった……)

 こんなことを口にしたら、きっとミケに怒られてしまうだろう。
 おそらくは、私の母を自任するネコにも、刺した本人であるトラちゃんにも。
 私自身、刺された時の痛みも恐怖も覚えていないから言えるのだとも思う。

(でも……もしもミケが刺されていたら、トラちゃんはあの場で即刻断罪されていたかもしれない)

 まだ親に庇護されているべき年齢の子が、戦争の矢面に立たされて犠牲になるなんて、あまりにも悲しいことだ。
 そんな決断をミケにさせずに済んだこと、もちろんミケ自身が傷付かなかったことを思うと──

(ちょっとだけ……ちょっとだけ、この傷跡が誇らしい)