『あざとい小僧め。恥ずかしげもなく珠子に依存しおって』
「タマコ、いい匂い……なんだかほっとする……」

 トラちゃんは、ミケやロメリアさんと同じく、ネコ達のフェロモンが効かない代わりに私の影響が及ぶ体質だった。
 ミケと同じようなこと言いつつ、またたびを前にした猫のごとく擦り寄ってくる。
 甘えん坊の弟ができたみたいで可愛くて、私はまたトラちゃんの髪を撫でた。
 その際、黒い綿毛も払い落としたのだが、トラちゃん本人にも、世話係の侍女にも見えてはいない。

「「「「「ミーミー! ミーミーミー!」」」」」

 一方、嬉々としてそれにぱくつく子ネコ達を尻目に、ネコはさっさと窓辺に移動してしまった。
 末っ子チートに反抗されてご機嫌斜めなのもあるが、そもそもネコはこの部屋に来ることに──もっと言うと、トラちゃんに対しても好意的ではないのだ。
 そのため、私をジロリと見ては、ブツブツと文句を言い始める。
 
『まったく! 珠子の図太さには呆れるな! よくも、平気な顔をしてそやつと会えるもんじゃ! 忘れたわけではあるまい! なにしろ、その小僧は──』

 その時だった。
 バン! とノックもなく扉が開いて、驚いたネコがぶわわっと毛を膨らませる。
 私は飛び上がりそうになり、トラちゃんもはっとした顔で扉の方を見た。


「──タマ、そいつから離れろ」