『図太い小僧じゃ。捕虜になって敵国の王宮に軟禁されとるっちゅーのに、悲壮感も何もあったもんじゃないな』

 ネコが何やら憎々しげに呟いて、私の腕から飛び下りた。
 トライアン王子──トラちゃんの方も、ネコや子ネコ達には見向きもせず、そのくせまるで猫が戯れつくみたいに私の肩に頭を乗せてくる。
 半年前に初めて対面した時は、私より背が低かったはずなのに、いつの間にか目線の高さが同じになっていた。きっと追い抜かれるのも時間の問題だろう。
 そんな成長期真っ只中にある子が食事を抜くなんて、よろしくない。

「退屈しのぎになるかどうかわからないけれど、昼食用にいろいろバスケットに詰めてもらったんだ。トラちゃん、少しでもいいから食べてみない?」
「……うん」

 トラちゃんの世話係である侍女から相談された私は、軟禁生活に飽き飽きしている彼が楽しめる食事はどのようなものだろうと考えた。
 そうして思い付いたのが、巻き寿司ならぬ巻きサンドイッチだ。
 侍女が抱えているバスケットには、その一式が詰め込まれていた。

「薄切りにした四角いパンに好きな具材を載せて、くるくる巻いて食べるの」
「へえ……おもしろそうだね」
「王宮の厨房にお願いして、具材もたくさん用意してもらったんだよ。生野菜に燻製肉、チーズやフルーツ、ディップもいろいろ! トラちゃんは何が好きかな?」
「僕、食べられないものはないけど……好きなものも特にない、かな……」

 好きなものはない、とは随分と寂しいことを言うものだ。
 私はたまらず、自分の肩に乗っているトラちゃんの頭を撫でた。
 すると、でも、と彼が小さく呟く。

「タマコが食べるなら、僕も食べようかな……食べ終わるまで、一緒にいてくれるでしょ?」
「うんうん、もちろん一緒にいるよ! 一緒に食べようね!」

 まだ幼さの残る少年のいじらしい言葉に、私は大きく頷いて返す。
 一方ネコは、私達の足下でフンと鼻を鳴らした。