「──タマコ!」
「トラちゃん、こんにちは。お加減いかが?」

 所々黒いメッシュの入った銀髪がサバトラ猫っぽい、中性的な容姿をした少年である。
 十五歳になるらしいが、まだ声変わりも終わっておらず、白いシャツと黒いズボンに包まれた体は随分と華奢だ。

(成人しているミケやムキムキの将官さん達に見慣れているから、ますます繊細な感じに見える……)

 私はそんな彼の長めの前髪を掻き上げるようにして、額に触れた。
 蜂蜜みたいな金色の瞳が、私の一挙手一投足を見つめている。

「熱は……ないのかな。昨日の夜から食べていないって聞いたけど、どうしたの? お腹痛い? ロメリアさんに診てもらおうか?」
「いやだ! あの公爵令嬢はなんか怖いから、絶対いやっ! 熱もないし、お腹も痛くない!」
「ロメリアさん怖くないよ、おもしろいよ? いや、でも……ご飯が食べられないのは心配だなぁ」
「……食べられないんじゃなくて、食べたくないだけだよ。だって、部屋に閉じ込められてて退屈なんだもの。お腹なんか空かないよ」

 唇を尖らせながらも、甘えるみたいに私に擦り寄ってくる少年の名は、トライアン・ラーガスト。
 ベルンハルト王国との戦争に敗れた、ラーガスト王国の末王子である。