正午を前にし、廊下の窓から見える空が濁った色の雲で覆われ始めていた。

『ふん……ヒゲが湿気ってきおったわい。珠子、雨が降っとるんじゃないか?』
「まだみたいだけど……降りそうではあるよね」

 私に抱っこされたネコが、ブツブツ文句を言いながら前足で顔を洗う。
 私の肩や頭に乗っている子ネコ達も、一斉に真似をし始めた。
 猫が顔を洗うと雨、というのは迷信ではなく、ヒゲが空気中の湿気を敏感に感じ取っているせいなのだとか。
 先ほど声をかけてきた侍女とともに、私とネコ達は王宮の一角にある部屋を訪ねた。侍女は、籐のバスケットを抱えている。
 もともとここには、二日に一度は顔を出すようにしているため、扉を守る衛兵の厳めしい顔がネコ達を前にしてとろけるのにも見慣れたものだ。
 昨日の午前中も私と一緒にここを訪れていたネコは、これ見よがしにため息を吐いた。

『珠子よ……お前、ここに顔を出しておること、あの王子に言っとらんだろう? バレたら絶対にいい顔をせんぞ』
「それがわかってるから、ミケには黙ってるんじゃない。国王様から直々に頼まれたことだから断れないし、そもそも、私もあの子のこと心配だし……」

 私の言う〝あの子〟は、衛兵が扉を開いたとたん、ぱっと顔を輝かせて駆け寄ってきた。